ひさびさ創作。

久々に二次創作をば。
出所は、友人からの素敵なイラストに対して、いっそ菓子折でも渡した方が良い気がするお礼文。
欲望(主に食欲)のままに殴り書き。

美味しいそばがきが猛烈に食いたいです。
たまに、口の中の水分を全部持ってかれる、凶器のようなクソまずいやつもありますが、それは論外。
そば湯ですら、風呂の残り湯すすった方がマシ、というしょうもない店もありますが。
地元の「彦三」という蕎麦屋のそばがきが、ものすごく好きで。そのままのやつと、揚げ浸しにしたやつがある。絶品。

あとは、実家の近所にある酒屋の亭主が、大晦日に打ってお裾分けしてくれる(我が家はお礼に山菜の水煮を渡す)打ち立ての十割蕎麦が、私の知る限りで最も旨い蕎麦です。つなぎが無いと、ボソボソしがちだけど、ちっともそんなことがなくつるっと滑らか。これに祖母の手作りダシをつけて食うのが、年末の最上の贅沢です。市井の人の隠れた特技というのは、なかなかどうして、あなどれないものがあります。
盛りそば一杯のためだけに、家中のふすまを張り替え、畳を返し、神棚に登ることすら厭いません。ほんと旨いんだ。


ここから先は、二次創作の苦手な方はご注意ください。続きからどうぞ。
「3月のライオン」で島田さんと宗谷の話。
冬の午後、蕎麦屋でデート。か…?なぜこうも甘さとは縁遠くなるのだ私よ。

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何年も連れ添い、くたびれたコートの襟をかき合わせた。
午後の対局までぽっかりと空いた時間を、どうしようかなと算段する。
いつもの直感的な頭の回転は日常にはなく、北風に吹かれながら息が白くなることを確認して、ぼんやりと歩いた。

東京の冬は、うっとうしい寒さだと、中学の頃から思っていた。
一年の半分を雪に埋められて育ってきた自分にとって、関東平野の寒気は切迫した冷たさではなかった。
ただ体にまとわりついて、季節を思い起こさせる演出だと、南の人たちには申し訳ないけれど、そう思う。
呼吸をしたら肺が痛くなるような、ひりひりとした氷点下の空気や、真昼からライトを灯してゆるゆると運転しなければならない地吹雪、空き家を次々と押しつぶしていく重たい湿り雪。そういうものに比べたら、なんとも中途半端だった。

でも、将棋会館の少し手前で記者につかまっていた男を見つけると、途端に底冷えを思い起こした。
宗谷だった。
あいつは、どんなところにいても、荒野で寒さをこらえているように見える。そう思って、すぐに打ち消した。
違う。
冬の冷たさすら、従えている。そう言った方が正しい気がする。この世に生まれてからずっと、その静寂と冷たさに晒されてきた子ども。暖かさを知らない、もしくは、熱を与えられた時が短すぎて、覚えていないのかもしれない。
暖かさを知らないと、自分が寒いことには気づけないから。それが当たり前だと思ってしまうから。
あいつは多分、自分が感じているものが、寒さだということに気づいていないのじゃあないだろうか。
ハタから見ている俺たちが、どんなに寒そうだと思っても、奴はけろりとしている。
平気なんじゃない。気づいていないのだ。
宗谷を見るたび、そんな思いに駆られてどうしようもなくなる。

衝動を飼い慣らせていると、自分では思っていた。
むしろ、将棋以外のことにかまけている時間は本当にわずかで、自分の欲望は、あの小さな盤面に全て捧げたつもりだし、何もかもくれてやったつもりだった。
こぼれ損ねてビン底に数滴残ったくらいの、わずかな熱情が存在を主張した。たまらず名を呼ぶ。

「宗谷」

囲んでいた記者が、異形のものでも見るように振り向いて、目を見張った。
なんだ、名前くらい。
こいつは確かにすごくて、天才で、でも、腫れ物を扱うみたいに名前を呼ばれることは、本意じゃないはずだと思う。
名前は、しょせん名前だ。そいつの一部かもしれないが、そいつそのものではない。
もう一度、空気を吐くついでにその名を呼んだ。存在そのものの重さと比べたら、名前はこれくらいの軽さでちょうどいい。
「宗谷。蕎麦、食いにいこう」
見慣れた相手じゃないと分からないくらいに、小さく頷いた。意識的なのかはいまだに分からないが、こういう時は特に不都合が起こったこともない。ごく控えめな肯定だと捉えて、腕を引っ張っていった。

「どうした、いきなり」
奴は俺に対して、主語や目的語を欠いた話し方をする。平均よりも少し高めの声で、一語一語をはっきりと口にして。
「旨い蕎麦屋があるんだよ。前に会長に連れてってもらったんだが、量が多くてな。一人じゃ厳しいから、誰か行かないかと思ってた」
お前、アレルギー持ってないよな。先約とかあったか?
無いよ。そっちも無い。平気だ。
解決しておきたかった質疑と応答を、短く繰り返す。
尋ねたいことのストックが尽きると、あとは沈黙だけ。間をつなぐ言葉は、なぜか必要なかった。
ふっと、含んだように笑う声がした。
「なんだよ」
「お前、蕎麦まで辛いのか。歳喰ったな」
「お前だって同い年だろう」
「そりゃそうだけど、」また笑う声。
奴が少し笑った顔を見て、自分の表情も緩む。そうだよ、と返して、あとは木枯らしの音だけが吹き過ぎる。

藍染めののれんをくぐると、少し早い時間のせいか、先客はいなかった。
香ばしいそば茶を口にして、ほうと一息吐いた。鴨南ひとつと、せいろを一枚、温つゆで頼む。
天井近くに置かれたテレビから、NHKの昼のニュースが流れてくる。
かつおだしの良い匂いがして、店内は程よく暖かく、そしてそんな中に自分と宗谷がいることが、改めて不思議だった。
若い頃は、こいつと差し向かいに座る時が来るなんて、思いもしなかった。
姿を見るたびに、身を引きちぎられるような焦燥と、喉をこじ開けて這いずり出てくるような諦念が、黒く渦を巻いた。
旨いものでも食いに行こうと、ひょいと声をかけられるようになったのだから、加齢だってそう悪いもんじゃない。
完成して、もはや誰も掘り進めなくなった彫刻みたいな容貌のこいつに、いつかそう言い張ってやりたいと思う。

お待ちどうさま。
つらつらと物思いにふけっていたら、もう?と聞き返したくなる早さで、蕎麦が届いた。
鴨と一緒に蕎麦をすすると、目を少し見開いてこちらを見てくる。
「うまいな」
「な。会長の、飯に対する執念をあなどっちゃいかんな」
こく、とうなずきながらも、もはや視線は蕎麦に戻っている。
忍び笑いつつ、せいろも勧めてやった。

ひとしきり蕎麦をすすった後、添えられた蕎麦猪口に手を伸ばす。
ここの店は、どのメニューにも蕎麦掻きがついてくる。
かしゃかしゃとそば粉を混ぜていると、けげんそうな顔でのぞき込まれた。
こいつは、誰よりも如才なく大人になったはずなのに、ふとすると育ち損ねた子どもみたいな顔をする。
「食ったことないのか」
「ない」
「そばがきっつーんだ」
「それは知ってる」
「…食うか?」
「食う」
「ほれ」
「ん、」
猪口ごと渡してやると、いそいそと箸を伸ばしてきた。
何度も卓を囲んで分かってきたことだが、宗谷は案外、食べたことの無いものが多い。
白焼きを勧めたのは、確か四ツ谷の鰻屋だった。
おだまき蒸しは、去年の冬に小田原で。ほうとうは、甲府の駅前だったように思う。
富山の対局では駅弁の鱒寿司。将棋会館からの帰途では、神田のインドカレー屋に寄り道をした。
いつも不思議そうな目でのぞきこんでくるので、自分の皿ごと渡してしまう。
何もかも見透かす目を持っている奴が、初めて外界の空気に触れた子どもの目になる。
今度は何を食わせようか、最近ではそんなことを考えるようになった。


会計を済ませて引き戸を開けると、木枯らしが強く吹き込んできた。
誰もいない川沿いの道を、横に並んでゆるりと歩く。
鳥も飛ばない灰色の曇り空に、さみしい冬風の鳴く声がする。雲が流されていく。
つい、何の前触れもなく聞いてしまった。もしかしたら、ずっと聞きたかったのかもしれない。

「寒くないか」
少し虚を突かれた顔をして、ふるふると横に首を振る。
確かに少し、唐突だった。そんならいい、とごまかして笑う。
宗谷が思いがけず、口を開いた。
「お前の方が、寒そうだ」

呆気にとられたのは、自分だった。聞き返す間もない。裾を引かれた。橋の欄干で足を止める。
ぽふっと衣擦れの音がして、コート越しの背中にじんわり熱が伝わる。
むりやり首を回すと、冷えと角度に耐えかねて骨が鳴った。顔は背中にうずめられて、表情は見えない。
後ろ手に手を握った。ずいぶん温かいなと思ったら、冷えていたのは自分の指だった。
「寒いのには、慣れてるよ」
妙に人恋しげな声だった。自分の声なのに、聞き覚えのない感情をはらんでいる。
そうか、とくぐもった声が背中ごしに聞こえた。
あとは沈黙が場をふさいだ。
こんな寒空の下、男二人が引っ付いて立ちつくしている様は、よほど酔狂に見えるだろうと自覚していた。
それでも、風の音にじっと耳を澄ませた。

違ってた。もう一度思い直す。
奴だけじゃない。
俺もまた、寒風吹きすさぶ荒れ野に立っていたのだ。
少ない体温を分け合って、奴は空をゆく。俺は草に足をもつれさせながら、這々の体で野をゆく。
たちまち見えなくなっていく奴に、俺は叫ぶ。
たまには、降りて来いよ。
ほんのひととき、美味しいものを食べて、冷えた体を温めて、そうしてまた羽ばたくと良い。
俺もちゃんと、追いかけるよ。
吹雪の中、自分の手すらも分からなくなる雪の中、灰色の空を飛ぶ白い鳥だけを目印に、ここまで来たのだ。


ぬくもりが惜しくなる前に、そっと離れた。
分け合った体温はすぐに紛れて、自分のものと分からなくなった。
それでいい。自分の熱だけ握りしめて、盤上で相見える。それが迎え討つ奴への、礼儀だろう。
何事もなかったかのように並んで、将棋会館へと向かう。

そういえば不思議なことに、あれだけ苦しめられた冬を、自分は一度だって嫌ったことはない。
群青と橙に染まる夕暮れの雪原も、白く凍り付いた樹氷も、何もかもが清められるような明け方の冷気ですら、嫌いにはなれなかった。暖かな東京の冬で、何よりも慕わしく思っていた。叫び出したくなるほど、懐かしかった。
宗谷は冬に似ている。あんなにも恐れおののいていたのに、いつの間にかただ一人、こんなにも近くにいる。

風に白いものが混じり始めた。ごく細かな雪片が吹き付けてくる。
「初雪だ」
どちらともなく空を見やる。
「寒くなるな」
「今度は谷中に鳥鍋、食いに行くか」
奴がこくりとうなずく。さっきよりも、少し角度は深く。




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島田さんが、何気ないときに強引だったら素敵だ…。と思って書きました。
そして宗谷をどう扱ったら分かりません…。
しっかりしてるとは思うんだけど、どうにもぽやっとした感じに書いてしまう。
もしや理花さん(ハチクロ)と似たタイプか。
宗谷には、美味しいものや楽しいことがあるんだってことを、島田さんが教えて欲しいです。
しかしそう思って書いてみたらば、ハチクロのはぐちゃんと花本先生のようになってしまった…。そうじゃねーんだ自分よ…
ここ最近、力不足を痛感しつつも、そのことに慣れてはいけないし、甘んじることはもってのほかだし、言い訳にすんじゃねぇよと腹の内で怒鳴りっぱなしです。お前その年で何を分かったつもりだ、と。

それにしても私は理花さんとか宗谷に、「旨いものを食わせたい願望」があるのだろうか…。
でも、食の関心が薄い子に、あれこれ食わせるのは好きです。趣味と言ってもいい。

宗谷の口調は、捏造です。
外見のモデルであろう羽生棋士が、けっこう高めの声質なこと。
耳の遠いばあちゃんと同居してるのなら、聞き取りやすく話すのが癖になってるだろうと思ったことなどから。

原作で、島田さんが宗谷を鳥に例えているのを思い出して、シラサギもいいけど、冬空を飛ぶなら白鳥の方が(個人的に)ネタはあるんだけどな…と思いながらの話でした。白鳥は、また別の機会に使おう。


ちなみに、肉体関係は、あってもなくても良いけれど、あったとしたら死ぬほど萌えるのはなぜだろう。
無いなら無いで、そのストイックさがたまらん。
いかにも淡泊そうな二人だから、逆に良いのでしょう。
だって、がっつく島田さんとか、額に汗する宗谷とか、もうこの字面だけでアドレナリン全開です。
普段将棋以外どうでもよさそうな(正直、島田さんに彼女がいたということにすら驚いた)二人だからこそ、良いわけだ。
誰かに無我夢中になる二人が見たい。もちろん自己に向かってもいいんですが。
桐山君の場合は、良くも悪くも自分にベクトルが向いてると思う。

二次創作・小咄 comments(1) -
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Comment








こんにちわ。島と宗さんの絡みが読みたくて探しまくっていました。すごーく良かったです!!のほほんとした雰囲気が伝わってきて、島の優しさと宗さんのちょっぴりの憐憫さがもう悶えました!良かったらまたこの二人の話を書いてください〜全力で応援します!
from. 透明 | 2011/02/21 00:10 |
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